“実現不可能”からの出発
木下「日本橋三井タワーの日本橋サロンのなかに、三井の歴史が始まったルーツである日本橋の街を細部まで再現したジオラマをフルカラー3Dプリンターで作成できますか?とご相談いただいたのが始まりです。さまざまな選択肢があるなか、どうせなら100%、フルカラーの3Dプリンターでつくることができたら、ジオラマの街に別の意味を持たせることができる。クライアントである三井不動産レジデンシャルさんや代理店さん、模型会社さん、そして3Dプリントとデザインの事業を行う弊社で、そんな “モノづくり” がスタートしました」
山口「新しいチャレンジでしたね。1/1000スケールで、3.59m×2.36mサイズのジオラマ…これは私が知る限り世界最大の大きさです。作るとなれば、全体を80程度のブロックに分けて出力することになる。私たちが求める高い精度で、1つ1つのブロックを3Dプリンターで出力しようとすると、1ブロックあたり数十時間、ものによっては50時間以上かかります。そうなると、80ブロック以上となれば、毎日休みなく動かしたとしても約半年もかかってしまうんですよ」
納期までかけられる時間は約3ヶ月。精密なジオラマを3Dプリンターですべて作るとなると、まず時間的な課題があった。それをどうしても実現させるために、山口は旧知の仲である世界有数のインクジェットプリンターメーカー「ミマキエンジニアリング」に相談を持ちかけたという。
山口「ミマキエンジニアリングさんは、フルカラーかつ世界最高レベルの性能を持つインクジェット方式のフルカラー3Dプリンターを開発・販売している業界では有数のメーカーですが、自分がプリンター関連の仕事をしている関係もあり、お付き合いがありまして。それで今回のジオラマのことを話したら、“このプロジェクトはやる意味がある” と言ってくださったんです。前例のないジオラマを作ることは、3Dプリンターの素晴らしさがわかる重要なアウトプットになると評価していただけたということですね」
木下「本当にミマキさんには助けられました。世界最高レベルのフルカラー3Dプリンターをフル稼働させて制作することは、我々にとっても初めてのチャレンジだったんです」
ミマキエンジニアリングという強力なサポーターが加わったことで、日本橋ジオラマプロジェクトは、急ピッチで進められることとなった。常時3台のプリンターが休むことなく稼働し、少しずつ進むことで、その全貌が見えてきたという。
山口「最初は、無理だといろいろなところから言われたんですが、私は逆にそう言われるとやる気が出るタイプなんです(笑)。この価値ある “モノづくり” をどうすれば成し遂げられるのかを、プロジェクトに関わる各々がアイデアを出していった。そうしたら、このジオラマは、作っても十分余りあるだけの価値を持っているという結論に達したんです。クライアントも含め関わったすべての人間がチャレンジしてできたのが、このジオラマです」
木下「ジオラマ制作のお話を詰めていったのが昨年(2019年)の5〜6月頃、その後多くの課題はあったものの、まずは始めてみようと実質7月の後半からスタートしました。時間的な課題もありましたが、多くの人に支えられて、10月末には全ピースが揃っていましたね」