(右)木下謙一
これからはエンジニアリングとデザインが手を組む時代
これまで特殊な技術として捉えられていた3Dのプリンティング技術も、いまでは近しい存在となり、あらゆる表現やプロダクトに反映されるようになった。だからこそ、これからはデザイナーとエンジニアが手を組み、掛け算のように新しいクリエイティブを生み出す時代だという。
そんな流れもあり、絶好のタイミングで、木下氏と山口氏は出会い、3Dプリントとデザインの事業を行う株式会社ラナキュービックを設立。今回のジオラマ制作のように世界最高レベルのプロジェクトが結実したことは興味深い。これからはどちらか一方の技術や発想でモノ作りをするのではなく、互いにクロスオーバーする必要性がある。それは両者の共通認識のようだ。
株式会社ラナデザインアソシエイツはじめRANA UNITEDグループの代表取締役CEO、武蔵野美術大学非常勤講師。
木下「実際にエンジニアリングとデザインの両方がわかるということが、とても重要になってきましたし、顕在化していると感じますね。スティーブ・ジョブズをはじめ、(コンピュータグラフィックス専用機の)シリコングラフィックスとネットスケープを創業したジム・クラークや、先ほども話に出たクリス・アンダーソンなんかが、それを体現していると思います。加えて、エンジニアとデザイナーの距離がより近い時代になってきた実感もあります。両者は時代によってくっついたり離れたりしますけど、いまは近しい距離感なんです」
山口「確かにそうですね。いままでデザイナーは、最終的に形にするところは、別の会社に発注していたわけですけど、3Dプリンターの出現によって、自ら企画、デザイン、製造、販売まで一気にできるようになった。なので、自分はテクノロジーの世界だけにいていいのか?という危機感を常に持っていました。今回の日本橋のジオラマ作りは、木下さんというデザイナーとともに一気通貫でプロジェクトを進めることで、いまの時代にマッチした大きな力が出せたと思っています。それに、こういうやり方をしないと世界でも通用しないと感じますね」
デザインとテクノロジーの邂逅。規格外のジオラマ作りは、そんな世界的な潮流を反映したようなプロジェクトだ。
木下「今回、ジオラマのお話をいただいたときに、3Dプリンターという新しい技術をフル活用することで、ジオラマの意味合いが何かしら変わるのではないかと思ったんです。それで山口さんにお声がけをして、やれることを模索していったのが出発点でしたね」
山口「最初は実現不可能だと思いましたが、完成してみると関わったすべての人間にとって有意義なものができたと心から思えます」
様々なファクターが重なって生まれたジオラマ作り。後編では、この画期的なプロジェクトを通して見えた3Dプリンターの課題と、未来予想図を両氏に伺う。
■プロフィール
木下謙一(きのした・けんいち)
1969年生まれ。株式会社ラナデザインアソシエイツなどクリエイティブとソリューションを提供するラナグループの代表取締役CEO、武蔵野美術大学非常勤講師。1992年、武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、NHKアート等を経て、1997年にラナデザインアソシエイツを設立。多くの著名企業のウェブサイト構築やアーティストのCDジャケット、広告ビジュアル、アプリ制作などを手がける。The New York Festivals、London International Advertisingawards、東京ADCほか受賞は多数。
山口修一(やまぐち・しゅういち)
1957年生まれ。株式会社3Dプリンター総研代表取締役CEO、株式会社マイクロジェット代表取締役CEO、一般社団法人日本3Dプリンター協会代表理事、工学博士、インクジェット&3Dプリンターコンサルタント。1983年、東京工業大学大学院理工学研究科修了後、エプソン株式会社(現セイコーエプソン株式会社)を経て1997年にマイクロジェット社を設立。以後、国内外でインクジェット技術普及のための講演活動や技術支援を積極的に行っている。2012年、『インクジェット時代がきた!』(光文社新書)を上梓。3Dプリンターやインクジェット関連の講演、論文、著作多数。